第10回 集合の濃度
これから述べる集合の濃度の定義は正確なものではなく、集合論でいう濃度がどのようなものであるか、その匂いを嗅ぐためのものことを先にことわっておく。
§1 集合の対等と濃度
A、Bを2つの集合とするとき、AからBの上への1対1の対応が少なくとも1つ存在するとき、AはBと対等であるといい、
で表す。
例1 自然数全体の集合{1,
2, 3, ・・・}をA、偶数全体の集合{2,
4, 6,・・・}をBとすると、である。
なぜならば、f(n)=2nは、AからBへの全単射(上への1対1の対応)だからである。
定理1 A、B、Cを任意の集合とするとき、次の関係が成立する。
【証明】
(1) Aの要素aにa自身を対応させる恒等写像はAからAへの全単射であるから。
(2) だからAからBへの全単射fが存在する。そして、この逆写像f⁻¹はBからAへの全単射だから。
(3) AからBへの全単射をf、BからCへの全単射をgとすれば、その合成写像はAからCへの全単射。
ゆえに、
(証明終)
(補足)
2項関係「〜」は、反射律、交換律、推移律が成り立つことを表している。すなわち、2項関係「〜」は同値関係である。
〜をX上の同値関係とすると、Xの要素aと同値なX全体の集合
をaの同値類といい、C(a)などで表す。
b∈C(a)をC(a)の代表元といい、特にaはC(a)の代表元である。
定理1より、あらゆる集合は、互いに対等なもの同士のいくつかのグループに分類できる。
このグループに付けられた目印、ラベルを濃度といい、集合Aの濃度を
で表す。
定義から、とは同じことを表す。
濃度は、有限集合の要素の個数の、一般の集合への拡張なので、有限集合の濃度には、要素の個数を用いる。
たとえば、集合{a,
b}の濃度|{a,
b}|は2であり、集合{α,
β, γ}の濃度|{α,
β, γ}}は3である。
例2 偶数全体の集合Bと自然数全体の集合Aの濃度は等しい。すなわち、|B|=|A|である。同様に、自然数全体の集合Aの濃度と奇数全体の集合Cの濃度も等しく|A|=|B|。したがって、偶数全体の集合の濃度|B|と奇数全体の集合の濃度|C|は等しい。
§2 可算集合
有限集合の濃度を有限濃度、これに対し無限集合の濃度を無限濃度という。
無限集合のうちでもっとも簡単な自然数全体の集合Nの濃度を記号
で表し、「アレフ・ゼロ」などと読む。
濃度の定義(と定理1)から、自然数全体の集合Nと対等な集合の濃度はすべてに等しく、逆にの濃度をもつ集合はNと対等である。Nと対等な、つまり、の濃度をもつ集合を可算集合(可付番集合)という。
Aを自然数全体の集合Nと対等な集合とすると、NからAへの全単射(1対1の対応)aが存在する。
自然数nの写像aによる像をで表わせば、
と、集合Aのすべての要素に自然数の番号を付けることが可能(可付番)になる。
可算集合の例
(1) 整数全体の集合
整数全体の集合Zの要素を
と並べ、最初から順にとおけば、Zの要素全体に自然数の番号を付けて並べることができる。したがって、整数全体の集合Zは可算である。
(2) 有理数全体の集合
まず、正の有理数について考える。
1→2→1/2→3→2/2→1/3→・・・の順に進み、とおく。
ただし、途中ですでに出てきた数(たとえば、)は飛ばして進むことにする。そうすれば、正の有理数全体に番号が付けられ、次のように一列に並べることができる。
したがって、有理数全体の集合Qは
と並べられる。
こうして得られた数の列に、左から順に
とおけば、有理数全体に自然数の番号を付けて並べることができる。
したがって、有理数全体の集合Qは可算集合である。
(3) 代数的数全体の集合
整数を係数とする代数方程式
の解になるような実数を代数的実数または代数的数という。
任意の有理数は方程式px−q=0の解だから、有理数はすべて代数的数である。
なども、それぞれ、の解だから、なども代数的数である。
このような代数的数全体の集合も可付番集合であることが知られている。
有限集合と可算集合をあわせて高々可算な集合という。
問1 A、Bがともに高々可算集合ならば、A∪Bは高々可算集合であることを示せ。
【解】
A、Bが有限集合ならば、A∪Bが可算集合であることは明らか。
Aが有限集合、Bが可算集合のとき、
と並べて先頭から番号をつければよい。
Aが可算集合、Bが有限のときも同様。
Aが可算、、Bが可算集合、のとき、
と並べ先頭から番号をつければよい。
よって、
A、Bがともに高々可算集合ならば、A∪Bは高々可算集合である。
(解答終)
問2 有限集合の列の和集合は、高々可算であることを示せ。
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