第7回 1次変換と図形1
§1 平面座標と1次変換
座標平面H=R²={(x,y)|x∈R、y∈R}の1次変換fによる像(の集合)について考える。1次変換fを表す行列をAとすると、次のことが成り立つ。
1 A=O(零行列)のとき、座標平面Hは原点に写される。
2 A≠OかつAの逆行列A⁻¹が存在しないとき、座標平面Hは原点を通る直線に写される。
3 A⁻¹が存在するとき、座標平面HはHに写される。
【略証】
1 とすると、任意の実数x、yについて
したがって、A=0のとき、座標平面Hは原点に写される。
2 Aは逆行列A⁻¹を有さないので
と書くことができる。ただし、aとbは同時に0にはならず、かつ、hとkは同時に0でないとする。
すると、任意の実数x、yについて
したがって、
よって、fによる座標平面Hは原点を通る直線kx−hy=0に写される。
3 Aは逆行列A⁻¹を持つので、とすると、。
したがって、任意の(x’,y')∈Hに対してこれに対応する(x,y)∈Hが存在する。よって、1次変換fによって座標平面HはHに写される。
問1 座標平面は、次の1次変換によって、どのような図形に写される。
【解】
(1)
したがって、
よって、座標平面は原点を通る直線y=2xに写される。
(2) とおくと、|A|=1・4−2・3=−2≠0だから、Aは逆行列A⁻¹をもつ。よって、座標平面は座標平面に写される。
(解答終)
§2 直線の1次変換
直線lの1次変換fによる像については次の関係が成り立つ。
1 A⁻¹が存在しないとき、直線lは点または原点を通る直線に写される。
2 A⁻¹が存在するとき、直線lは直線に写される。
問2 次の1次変換によって、直線y=x+1はどのような図形に写されるか。
【解】
直線y=x+1は、x=tとおくと、
と表すことができる。
(1)
したがって、この直線は原点に写される。
(2)
よって、この直線は原点を通る直線y=2xに写される。
(3)
x’=3t+2からtを消去すると、
これをy’=7t+4に代入すると、
よって、
(解答終)
(3)はの逆行列を用いると、次のように解くこともできる。
【(3)の別解】
とすると、|A|=1・4−2・3=−2≠0だから、Aは次の逆行列をもつ。
直線y=x+1上の点(x,y)の1次変換Aによる像を(x’,y’)とすると、
という対応関係がある。
(x,y)はy=x+1上の点だから
したがって、1次変換Aによって直線y=x+1は7x−3y−2=0に写される。
(別解終)
問題1 直線2x+3y=1上の点をすべて点(0,1)に写すような1次変換を求めよ。
【解】
tを媒介変数t(パラメーター)とすると、直線2x+3y=1上の点は、x=3t、y=−2t+1/3で表される。
直線2x+3y=1上の点はすべて点(0,1)に写されるので、任意のtに関して
したがって、a=b=0、c=2、d=3。
よって、
(解答終)
問題2 平面上で、1次変換fを表す行列とする。
(1) fが平面上の点をすべて、直線y=mx(m≠0)上に写すとき、Aの成分に関する条件を求めよ。
(2) fがなお、直線y=mx上の点をすべて動かさないとき、Aの成分に関する条件を求めよ。
【解】
(1) 平面上の任意の点(x,y)の1次変換による像を(x’,y’)とすると、
(x’,y’)はすべて直線y=mx上にあるから
x、yは任意の実数だから、
(2) 直線y=mx上の点は、媒介変数をtとすると、(t,mt)と表される。
直線y=mx上の点はすべて動かさないから
これが任意の実数に関して成立するので、
(1)からc=am、d=bmを①に代入すると、
したがって、求める条件は
(解答終)
おまけ
平面上の直線の方程式は、直線上の相異なる2点があれば定まる。
このことを用いると、例えば、問2の(3)は次のように解くことができる。
【問2の(3)の別解2】
y=x+1上の点(0,1)と(−1,0)の1次変換の像は
(2,4)と(−1,−3)を通る直線の方程式は
したがって、求めるべき直線の方程式は7x−3y−2=0
(別解2終)
このように解くことができるけれど、この方法で、1次変換
によって直線x+2y=2はどのような図形に写されるか、これを求めてみよう。
直線x+2y=2上にある相異なる2点を(2,0)、(0,1)をとり、Aによる像を求めてみると、
と、Aによる像が同じになってしまう(ハテナ)。
これでは、Aによる直線x+2y=2の像である直線の方程式が求められない!!
実は、このとき、直線x+2y=2上の点はすべてAによって(2,4)に写されるのであった。
|A|=1・4−2・2=0だから、Aは逆行列をもたず、正則行列ではない。
このような場合、逆行列を使っている別解1の解法は使えないし、直線上の相異なるAによる2点の像を用いた解法も危ない。
A⁻¹が存在しないとき、直線lは点または原点を通る直線に写される。
下線部を引いたことをを知っていれば、別だが・・・。
では、パラメータ(媒介変数)を用いた解法はどうか?
【解】
x=2tとおくと、
したがって、直線x+2y=2上の点は(2t,1−t)と表せる。ここで、tは任意の実数。
そこで、(2t,1−t)の像を求めると、
したがって、直線x+2y=2は、Aによって点(2,4)に写される。
(解答終)
さて、勘のいいヒトは、直線の方程式の係数と行列Aの行ベクトルが平行であることに気付くのではないか。
そうなんだにゃ、このとき、直線はAによって1点に写されるんだケロ!!
問題1 直線2x+3y=1上の点をすべて点(0,1)に写すような1次変換を求めよ。
問題1の答えは、
で、
の形になっているではないか。
そして、さらに言うと、
を満たすのは、(h,k)=(0,1)だから
と、簡単に解けてしまうのであった。
不幸にして、ここまで読んでしまったヒトに宿題!!
宿題 1次変換fを表す行列をとする。このとき、直線l:px+qy=r(p≠0またはq≠0)がfによって1点に写される条件を求めよ。
この宿題を解くと、「これは何処から出てきた!!」が分かるはず。
あるいは、
次のことを示せ。
A⁻¹が存在しないとき、直線lは点または原点を通る直線に写される。
さらに、余裕のあるヒトは、次のことも示す!!
A⁻¹が存在するとき、直線lは直線に写される。
(註)
「ベクトル(1,2)と零ベクトル(0,0)は平行ではない」けれど、形式的に
(0,0)=0×(1,2)
と書くことができる。
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